![]() | のぼうの城 (2007/11/28) 和田 竜 商品詳細を見る |
現在の埼玉県行田市に存在した水の中の浮き城・忍城(おしじょう)の攻防を描いた歴史小説。成田氏は北条傘下の地方領主であり、秀吉の小田原征伐に臨み城主成田氏親は秀吉への内通を決めていたのだが、城代成田長親が意地と誇りをかけて石田三成率いる大軍に抵抗する様を描いている。
主人公成田親長は城主の従兄弟である。鈍重で、才気や武勇とは縁がなく、領民たちからはのぼう様(でくのぼうの「のぼう」である)と呼ばれ、半ば馬鹿にされつつ親しまれている存在だ。農作業が大好きで、農民の中に混じりたがるのだが、不器用者に引っかき回されることが目に見えていて、のぼうが現れると恐惶を来す農民たちが笑える。
キャラクター設定も秀逸。勇猛さが売り物の家老・正木丹波守利英はのぼうの幼なじみだが、友人のトロさに常日頃から歯がみしている(こういうパターンは山本周五郎の短編にもあったが、のんびり加減の桁が違う(笑))。頭でっかちの軍略オタク若造・坂巻靫負、侠気あふれるガキ大将がそのまま大人になったような猛将・柴崎和泉守など、一癖ありげな登場人物たちは、それぞれにのぼうが好きなのである。
開城が決まっていた忍城攻めだが、石田三成の使者として乗り込んできた長束正家の虎の威を借る横暴な態度に、のそのそしていても誇りだけは高いのぼうが抗戦を決意、ここに、大軍に刃向かった痛快な攻防が展開されることになる。
普段は昼あんどんでも「やる時はやるぜ」と意外な才気を見せる痛快譚のパターンがあるが、のぼうは「やる時はやる」ようなタイプではない。ただ、俺が面倒を見てやらなきゃと万人に思わせるところがあり、それが彼の原動力なのだ。
しかし終盤、とてつもない凄みを見せる。盟友正木丹波をして「思えば名将とは、人に対する度外れた甘さを持ち、それに起因する巨大な人気を得、それでいながら人智の及ばぬ悪謀を秘めた者のことをいうのではなかったか。」とおそれさせるのである。まことに痛快。
この作品での石田三成は、パターンである冷淡卑劣な小才子ではなく、美意識と誇りが高いために自他に厳しいエリートである。秀吉の弟子を自認し、才覚で秀吉に対抗したいと思っているが故に、慣れない戦に燃え自滅するのだが、この男も好漢に描かれている。
まぁ、痛快な快男児が活躍し、胸透く読後感がある歴史物というのはある意味パターンではあるが、のそのそしたヒーローという点で新しいのではないだろうか。


